鉱物や地質の魅力を写真と文章で伝えるジオアーティストで、株式会社地学舎の代表を務める渡邉克晃様のサインを、ご署名ネットにて作成させていただきました。写真パネルや著書に書き入れる一枚として、デザイン性の高いサインをというご依頼です。合計13案のご提案を経て完成したのは、渡邉様ご自身がお決めになった省略形のサインでした。

作成の過程
ご依頼時のご要望は明確でした。写真パネルへの記入と自著へのサインに使うこと。デザイン性に富み、判読に難があってもかまわないこと。横長になりすぎる場合は文字の一部を省略してもよいこと。読めることより佇まいを優先するご依頼です。
まずは Katsuaki Watanabe のフルネームで4案をご提案しました。

渡邉様が選ばれたのは2番。傾きが無く、下線も無いのに字の並びだけで直線的に見えるところを評価いただきました。あわせて、冒頭の K が J に見える、直線の要素を足してもう少し硬くしたい、字数を減らした Kats Watanabe も見てみたい、という3点のご要望をいただきます。
2番の骨格を残したまま直線的な要素を強めた4案を作成。うち2案はご希望どおり Kats Watanabe の構成です。

8案を並べる中で、渡邉様はつい読もうとしてしまう自分の癖に気づかれます。そして、好感を持つサインには文字数が自分の名前より少ないという共通点があると分析され、参考図案5点とともに K. Watan / Kats Watan / Katsuaki Watan という3通りの省略形をご用意くださいました。どの文字を残すかを決めてくださったのは渡邉様です。
このご指定にそって、新たに5案を作成しました。

渡邉様はこれを紙に出力し、何度か書いたうえで9番をお選びに。書きやすさも大丈夫そうです、というお言葉とともに最終デザインが決定しました。
意識したこと・試行錯誤したポイント

残す文字は、渡邉様のご指定どおり K のイニシャルと Watan の5文字。私の仕事は、その6文字でどう形を組み立てるかでした。
文字数が減った分、一画一画を大きく取れます。冒頭の K は縦に大きく立ち上げ、ループの膨らみをそのままサイン全体の高さとして使いました。初回にご指摘いただいた J に見えるという問題は、この立ち上がりに角度と折り返しを与えることで解消しています。
そして全体を貫く一本の長い線。左下から右上へ、サインの下をくぐり抜けて伸びていくこの線が、今回のデザインの背骨です。渡邉様が繰り返し挙げてくださった、直線的でスタイリッシュ、安定感があるという感覚を、装飾ではなく構造として担保するための線でもあります。文字自体は柔らかく崩していても、この一本があることで全体はぶれません。
Watan の部分は、あえて小さくまとめました。K の大きさと対比させることで視線の主従が生まれ、横幅を抑えながら密度のある見え方になります。写真パネルの隅に小さく入れても潰れず、著書の見返しに大きく書いても間延びしない。サイズが変わっても印象が変わらないことを、この主従関係で作っています。
今回のサインを作りながら思ったこと
印象に残っているのは、渡邉様がご自身の見方の癖に気づかれた場面です。
判読性は問わないとお伝えくださっていた方でさえ、実際に案が並ぶと無意識に読もうとしてしまう。これは決して珍しいことではなく、これまで2,800人以上のサインを作成してきた中で、ほとんどの方が通られる道です。名前は読むものとして何十年も見てきているので、その習慣は簡単には外れません。
この癖から抜け出す一番の近道は、案を並べて見比べることだと考えています。頭の中で理想を言葉にしようとしても輪郭は出てきません。実物を横に並べて初めて、自分がどこに惹かれているのかが見えてくる。渡邉様が、文字数の少なさに惹かれるという共通点をご自身で突き止められたのは、まさにその過程でした。
もうひとつ、ご署名ネットでは修正回数をあらかじめ区切っていません。回数に上限があると、お客様は残りを計算しながら要望を出すことになり、本当に気になっている点が最後まで出てこないまま完成してしまいます。今回、渡邉様が参考図案をそろえ、省略形まで整理してくださったのは、遠慮が要らないとお伝えできたからだと思っています。あの資料とご指定がなければ、この形にはたどり着けませんでした。
渡邉様の声
初回のご提案には、この中では2番の案が一番好みのデザインです、と気に入られた点を3つ挙げて具体的にお返事をいただきました。こうした言語化は、次の一手を大きく助けてくれます。
最終案をお選びいただいた際には、次のようなお言葉をいただきました。
紙に印刷した後、何度か書いてみました。まだ全然慣れないですが、書きやすさも大丈夫そうです。何度も作成いただきありがとうございます!
納品後には、たくさん練習して末長く大切に使わせていただきます、とのご連絡もいただいております。
サインを作ってみたい方へ
作品に添える一枚、著書に書き入れる一枚、書類に書く一枚。同じお名前でも、使う場面によって最適な形はまったく違います。読めなくてもいいから作品に似合う形がほしい、フルネームでは長すぎるので省略した形も見てみたい、といったご相談も歓迎しております。案を並べて見比べるところから、一緒に理想の一枚を探していきますので、ぜひお気軽にご相談ください。
渡邉克晃様について
渡邉克晃様は、鉱物や地質の魅力を写真と文章で伝えるジオアーティストであり、株式会社地学舎の代表を務めていらっしゃいます。
1980年に三重県四日市市でお生まれになり、広島大学にて博士(理学)を取得。物質・材料研究機構(NIMS)、東京大学、原子力規制庁と、一貫して地球科学の研究に携わってこられました。研究の現場で培われた知識を広く届けるため、2020年からサイエンスコミュニケーションの活動を開始され、2024年には株式会社地学舎を設立。現在はアート、サイエンスコミュニケーション、SNS運用支援の3つを事業の柱とされています。
一般向けの科学書の執筆も精力的に続けておられ、『美しすぎる地学事典』(秀和システム)、『ふしぎな鉱物図鑑』(だいわ文庫)、共著『驚異の標本箱―鉱物―』(KADOKAWA)など、6年間で8冊を刊行。地球が生み出した物質の、美しいだけではないおもしろさを伝える活動を続けていらっしゃいます。
今回作成したサインは、写真パネルや著書に書き入れる一枚として使っていただく予定です。
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