クレジットカードのサイン決済廃止へ―サイン専門家が語るデジタル時代におけるサインの未来

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クレジットカード決済時の本人認証手段として長年親しまれてきた「サイン(署名)」による確認が、2025年3月末をもって廃止されます。

これは、店頭におけるクレジットカード利用時に暗証番号(PIN)入力を省略してサインで代替する方式(PINバイパス)を終了し、今後はICチップ付きカードでの決済では暗証番号入力が必須となることを意味します。

本記事では、このサイン決済廃止の概要と背景、日本や海外の状況、カード裏面署名の重要性、さらにデジタル署名の仕組みやサイン文化の今後について、サイン専門家の視点から詳しく解説します。

クレジットカードのサイン決済廃止とは?

まず、サイン決済廃止の概要について整理します。

2025年4月以降、ICチップ付きのクレジットカードを店舗で利用する場合は、原則として暗証番号の入力が必要となります。

サインによる本人認証(いわゆるサイン決済)は基本的にできなくなり、ICカードを用いた決済で暗証番号を求められることになります。

ホテルや高級レストランでスマートにサインをするシーンが見られなくなるということですね。

一方で、タッチ決済(非接触IC)による少額取引はPINスキップ機能とは別枠の扱いであり、今後も暗証番号なしで利用可能です​。

この方針転換の背景には、クレジットカード不正利用被害の増加とセキュリティ強化の要請があります。

日本クレジット協会の統計によれば、2023年の国内におけるクレジットカード不正利用被害額は過去最高の540.9億円(取引額全体の約0.05%)に達し、前年から24%増加しています​。

不正被害の大半(約93%)はインターネット上でのカード情報盗用によるものですが、店頭でも盗難カードがPIN入力なしで悪用されるケースがありました​。

また、海外で発行されたカードなどで暗証番号による本人確認ができないものについては、2025年4月以降も引き続き電子サインの記入(署名)が求められるケースがあります​。

つまり、日本国内発行のICカードについてサイン決済が廃止される一方、国外発行カードや特定の取引形態では署名が残る場合があることに留意が必要です。

日本におけるサイン決済の実態と課題

従来、日本の店頭決済で行われてきたサインによる本人確認は、実際には形式的なものとなっており、署名欄にサインが無いカードであっても気付かず決済できてしまう店舗もあり、サインによる認証には抜け穴がある状態でした。

サイン決済が形骸化していたことは、不正利用リスクの一因とも言えます。

盗難カードや拾得カードが悪用された場合でも、暗証番号の入力を省略できてしまうと犯人はそれらしい署名を書くだけで決済できてしまい、署名を店員が厳格にチェックしなければ不正を防げないため、セキュリティ対策としては脆弱でした。

今回の暗証番号入力必須化によって、このような署名悪用のリスクは大幅に低減される見込みです。

実際、ICカード+PINによる決済は署名よりも安全性が高く、暗証番号を知り得ない第三者による不正使用防止に有効とされています。

もっとも、新ルールへの移行に伴い利用者・店舗双方での対応も求められます。

利用者側では、今まで署名頼みで暗証番号を失念している場合に備え、事前にカード会社へ問い合わせて暗証番号を確認・再設定しておくことが重要です。

暗証番号を忘れたままでは原則決済できなくなるため、番号の再確認は必須の対策と言えるでしょう。

店舗側でも、据置型端末でテーブル会計を行っていた飲食店などは、お客様が暗証番号を入力できるようレジ周辺への誘導やモバイル決済端末の導入など環境整備が必要です​。

このように、サイン決済廃止はセキュリティ強化策である一方、現場の運用見直しも伴う点に注意が必要です。

アメリカのクレジットカード決済の現状

海外、特にアメリカではクレジットカード決済時の署名はすでにほぼ廃止されています。

実は主要な国際カードブランド(Visa、Mastercard、American Express、Discover)は2010年代より順次署名レス化を進めており、2018年4月にはアメックスやマスターカードなどがグローバルでサイン記入不要とする方針を打ち出しました​。

同年にはVisaも追随し、これにより米国を含む多くの地域で店頭決済時に署名を求められることはなくなっています。

背景にはICチップ搭載カード(EMV)の普及や、非接触決済・モバイル決済の浸透で署名による認証の必要性が低下したことがあります。

実際、米国では2015年頃から磁気ストライプ中心の決済からICカード決済への大転換(いわゆるEMV化)が行われ、さらにApple Payなどスマホ決済の登場で署名をする機会自体が減少していました。

米国における署名廃止後の運用では、一定金額以下の小口取引はもちろん、高額取引でも基本的に署名は不要です。

少額決済に関しては各社とも2010年頃から既にサイン省略を認めていましたが、それが全面的に拡大された形です。

現在では、カード決済時の本人確認はもっぱらカードのICチップが担う技術的なセキュリティと、必要に応じたPINコード入力、あるいはオンライン認証によって行われています。

例外的に、磁気ストライプしかない旧式のカードを読み取る場合や、ごく一部の店舗が独自に署名を求める場合もあり得ますが、ネットワーク上のルールとしてはサインは不要となっています。

このように米国では署名文化が既に決済実務から姿を消しつつあり、日本もそれに追随する流れと言えます。

国際的に見れば「署名による本人確認」は過去のものとなりつつあり、暗証番号や生体認証といったより強固なセキュリティ手段への移行が進んでいます。

日本でもICカード対応や非接触決済のインフラ整備が進んだことで、署名を廃止しても大きな混乱はないと期待されていて、今回の措置は、国際標準に倣ったキャッシュレス決済の高度化と安全性向上の一環と言えるでしょう。

カード裏面のサインの重要性は変わらない

サイン決済が廃止されるからといって、クレジットカード裏面の署名欄に自署する必要が無くなるわけではありません。

実はカード裏面のサインは決済時の本人確認だけでなく、カード会員規約上の義務であり、カード所持者の責任を明確にする役割があります。

多くのカード発行会社の約款では「会員はカード受取後直ちに所定欄に署名するものとする」と明記されており、署名の無いカードは正式には無効扱いとなり得ます。

仮に署名欄が空白のまま放置すると、第三者に拾われた際に自由にサインを書き込まれて悪用されるリスクも高まります。

また、カード裏面に署名が無い場合、万一カードを紛失・盗難され不正利用被害に遭っても、カード会員規約に違反しているとの理由から、通常付帯されている盗難保険の支払い対象外となってしまう可能性が高くなります。

その結果、不正利用による損害額を全額自己負担しなければならなくなる事態も想定されます​。

せっかくカード会社が用意している被害補償も、署名を怠っていては適用されなくなってしまうのです。

以上のように、署名欄への記名はカード会員の基本的な責務であり、サイン決済がなくなった後もカード裏面へのサインの重要性自体は変わりません。

カードが手元に届いたら裏面に速やかに自筆署名を行い、自分以外使用不可であることを示すようにしましょう。

近年、一部のカードでは券面のデザイン上から署名パネル(署名欄)が省略される「サインパネルレス」のものも登場しています。

これは非対面取引の増加やICカード・生体認証普及により物理的な署名欄の意義が薄れたためですが、そうしたカードでも発行時に何らかの形で署名(電子的署名を含む)同意を求められるのが通例です。

基本ルールとして、署名欄のあるカードは必ず署名し、ないタイプのカードでも利用規約に従って所定の登録手続きを行うことが大切です。

サイン決済がなくなっても「カード所持者本人の署名」という概念そのものは残り、カードの不正使用防止と契約上の責任確認のために引き続き重要な役割を果たします。

デジタル署名や電子契約の仕組みとは?

ここまで手書きサインの話題を扱ってきましたが、デジタル社会においては契約や認証の手段として「デジタル署名」や「電子サイン」が活用されています。

デジタル署名(電子署名)とは、公開鍵暗号方式やハッシュ関数など高度なセキュリティ技術を用いて電子文書に付与される電子的な署名情報のことで、これにより、その電子文書が特定の作成者によって署名されたこと、および署名後に改ざんされていないことを証明できます​。

紙の契約書における手書き署名や実印に相当するもので、暗号技術によって署名者本人性と文書の非改ざん性を担保する仕組みです。

一方、一般に「電子契約」で利用される電子署名・サインには様々な方式があります。

必ずしも全てが上記のような厳格な公開鍵暗号によるデジタル署名ではなく、例えば以下のような手法も「電子サイン」として用いられています。

  • 紙に書いた自筆サインをスキャンして電子文書に貼り付ける方式
  • タブレット端末上で手書き署名を入力し、その画像データを文書に添付する方式
  • 契約書データにタイムスタンプ(日時情報)を付与し、さらに署名者のアクセス元IPアドレスやメール認証によって合意を記録する方式

手書き画像を添付するだけでは真正な本人確認や改ざん防止が担保されないため、重要な契約では信頼のおける電子署名サービスが用いられます。

こうした厳格な電子署名は日本の電子署名法でも「本人署名」として認定要件が定められており、多くの国で紙のサインと同等の効力が認められます。

一方、宅配便の受け取り時にタブレットに指でサインを描くケースなどは、厳密には前述のような電子サイン(電子的に記録された手書き署名)に当たります。

法律上は手書き署名の電子的記録にすぎず、本人確認の証明力は限定的ですが、配送記録としては十分実用に供されています。

また、商取引の契約では電子署名サービスを使わずともメール認証+タイムスタンプ付与のみで合意締結とみなす「クリック契約」のような形態も存在します。

重要度に応じて手軽さとセキュリティ強度を使い分けているのが現状です。

まとめると、デジタル署名とは暗号技術によって紙のサイン以上に強固な本人確認・改ざん防止を実現したものと言えます。

一方で電子契約の実務では、必ずしも全てがデジタル署名で行われているわけではなく、手書きサインをデジタル化しただけの簡易な方式から、公的な電子証明書によるものまで存在し、契約の性質に応じて適切な手段が選択されています。

いずれにせよ、紙に押印・署名せずとも契約当事者の合意と文書の真正性を証明する手段が確立しており、サイン文化もデジタルの中で進化を遂げているのです。

サイン文化の未来と自己表現としての価値

このように決済や契約の場面では手書きサインの役割は小さくなりつつありますが、サインそのものの文化的・芸術的な価値まで失われるわけではありません。

サインはただの署名を超え、その人固有の筆跡やスタイルを通して個性や独自性が現れる、唯一無二の自己表現のシンボルです。

デジタルフォントでは表現しきれない人間らしい温かみがそこに宿り、デジタル時代においても手書きサインの価値が改めて見直されています。

特にスポーツ選手や芸能人の直筆サイン入りグッズは、今でもファンにとって特別な思い出や熱意の象徴です。

印刷された商品にはない、生身の人間の存在やその瞬間を証明する証拠として、直筆サインは特別な価値を持ちます。

また、文芸フェスティバルや新刊発表イベントで提供されるサイン本は、読者と著者の特別な出会いを示す感情的価値を内包します。

献辞と共に書かれた著者のサインは、読者にとって特別な痕跡であり、デジタルメッセージには決して置き換えられない存在感を放っています。

ビジネスにおいても、手書きサインを通じたブランディングの効果が注目され始めています。

デジタルが当たり前になった社会において、あえて手書きのメッセージやサインを用いることで、企業や商品に人間らしさや温もりを与え、顧客との距離感を縮める取り組みが行われています。

こうした動きは、デジタル疲れを感じる消費者に対して有効であり、ブランドへの親近感や好感度を高めることが期待されています。

さらに日本においては、ハンコ文化から脱却する流れの中で、手書きサインの価値が再認識されつつあります。

個々人が独自のサインを創作し、それを名刺代わりやアイデンティティの一部として使うケースも増えており、手書きサインは、個性を表現する手段として、今後ますます重要な役割を担うでしょう。

総じて、クレジットカード決済などでの実務的な役割は終わりを迎えても、手書きサインは決して消えることなく、むしろ人間的な接触や特別な出会いを示す貴重な証拠として存在感を増しています。

サインは思い出を作り、特別な出会いを証明し、私たちがその瞬間を生きたことを形として残します。

デジタルメッセージでは再現不可能なその価値は、今後も色褪せることなく輝き続けるでしょう。

ご署名ネット代表 兼 デザイナー

守屋 祐輔

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